そういえば、前、洸耶は緋奈乃が好きなんじゃないかって思ってた頃あったな。
でも、違うんだよね。
洸耶は、今も…
「洸耶って、好きな人とかいないの?」
洸耶の顔が少し強ばった。
でも、すぐにふっと笑う。
「野球が恋人ですから」
「野球バカな人って、すぐそう答えるよね~」
洸耶のバカ。
野球バカじゃなくて、ただのバカだよ。
そんな切ない瞳で、そんなこと言うなんてさ。
もはや嘘だって言ってるようなもんだよ。
八神さんのこと、まだ好きなくせに。
「洸耶ー。ちょいと来て」
黒板の前に溜まっている男集団が、洸耶を呼ぶ。
洸耶は「おー」と答えると、私の頭をポンと叩くと、真剣な顔で言った。
「いいか?あんま、溜め込むなよ。お前、笑えてるつもりで全っ燃笑えてないから」
そしてそのまま、黒板の前に行ってしまった。
笑えてるつもりで、笑えてないか。
洸耶には、そう見えてるんだね。
「はあ。イライラする」
すると、洸耶と入れ替わりに緋奈乃が帰ってきた。
緋奈乃はムッとした表情のまま、さっきまで洸耶が座ってた席に座る。
緋奈乃の表情からして、かなりイライラしてる様子。
緋奈乃の手には、財布とカレーパンひとつ。
ああ、そうか。
緋奈乃はクリームパンが大好き。
いつもはクリームパン買ってくるけど、今日はカレーパンだ。
ということは、クリームパンが売り切れだったってことで。
それでイライラしてるのかも。
