「俺って心広くねぇんだ。多分、自分の中で溜め込んで、爆発して、落ち込むかも」
「誰かに相談とかしないの?」
「したところで、何も解決しないよ」
大人だなぁ。
私だったら、間違いなく緋奈乃に相談してしまう。
ひとりで溜め込むことが、私は大嫌いだから。
「でもさ。好きな人がそいつを想って笑ってくれるなら、それはそれで嬉しいかもな」
好きな人が、その人を想って笑う…
蒼くんは私を引っ張る。
私はあっという間に、蒼くんのたくましい腕に包まれていて。
蒼くんに、抱きしめられていた。
「でも、違う。真湖ちゃんは、好きな人を想って笑ってない。泣いてんじゃん」
私を抱きしめてる蒼くんの腕は、少し震えている。
「真湖ちゃんが泣いてる理由、好きな人に好きな人がいるから?」
最初から、きっと蒼くんにはお見通しだったんだ。
蒼くんの腕に力がこもる。
私はその腕の中で、涙を零した。
「真湖ちゃんが笑ってんなら、潔く諦めた。でも…泣いてんなら、別だ」
「…」
「諦めないよ、俺。俺を想って、笑顔にさせるから」
違う。違うんだよ。
私は。
八神さんを想って泣いてる水原くんが見たくない。
私を想って、笑ってほしいだけなんだ。
蒼くんの腕が静かに離れる。
蒼くんは私の顔を覗き込むようにして見て、優しく笑った。
「…文化祭、一緒に回るんだよな。案内して?」
「…うん。行こっか」
その後のことは、全く覚えてない。
蒼くんがずっと隣で笑顔を向けてくれたこと。
緋奈乃と吉春くんが、少し悲しそうな顔で私を見ていたこと。
それくらいしか、覚えてなかった。
