「俺今さっき来たばっかなんだけど、偶然真湖ちゃん見つけて。しかもなんか走ってるし。どーした?」
蒼くんは、相変わらず優しい笑顔を向けてくる。
蒼くんは優しい人。
だから、よく私のことを、見ていてくれている。
「…真湖ちゃん泣いた?てか、泣いてる?」
ほら。すぐこうやって、気付くから。
私は顔を俯かせる。
蒼くんは何かに気付いたのか、私を引っ張ると、人気のない中庭に連れてきた。
中庭…
洸耶と八神さんも、いたところ。
もしかしたら、今もいるのかな。
「真湖ちゃん目真っ赤。明日腫れるよ?」
「あはは。そんなに?そんなに泣いた覚えないんだけどな」
「…何があった?」
蒼くんは真剣な表情で、私をジッと見る。
逸らすことなく、真っ直ぐに。
蒼くんの瞳を見て思った。
この人には、嘘つけないなって。
「…蒼くんは、好きな人に好きな人がいても、耐えられる?」
私がそう聞くと、蒼くんは考える素振りをする。
そして、少しだけ悲しそうに笑った。
「真湖ちゃん。その質問俺にするってことは、好きな人いるんだ?」
「あっ、いや」
「真湖ちゃんって、嘘つけないよな。そういうところ好きだけど」
蒼くんの想いが真っ直ぐすぎて辛い。
蒼くんは…私のことを好きだと言ってくれた。
でも私は、その想いに答えられない。
「好きな人に好きな人ね。俺は…多分無理」
意外だった。
優しい蒼くんなら、「耐えられる」って言うと思った。
