私が屋上から走り去ろうとすると、水原くんが私の腕を掴んだ。
「笹倉、聞けって」
「もういいから。私だって…辛いよ」
水原くんの腕を振り払って、私は屋上のドアに近付く。
屋上のドアノブを握った瞬間だった。
「真湖!」
…水原くんが、そう叫んだのは。
ずるい。本当に、水原くんはずるいよ。
いつもは「笹倉」って、名字で呼ぶのに。
こんな時に、「真湖」って、名前で呼ばないでよ。
私はドアノブを強く握った。
そして、ドアを開けて、屋上から逃げるように出た。
屋上を出て、私はひたすら走った。
涙を零しながら黙々と走る私を見て、文化祭に来ている他校の人達は、変な目で私を見る。
私…おかしいよ。
水原くんが八神さんを好きなことなんて、分かりきってるのに。
見え見えの嫉妬。自分でもわかってる。
でも…好きだもん。
気付いてしまったから。この気持ちに。
気持ちに…嘘なんてつけるわけがない。
だけどさ。
私は、私だよ。
八神さんじゃ、ないんだよ…
「真湖ちゃん!」
人混みの中、かき分けながら走っていた時、いきなり強い力で腕を掴まれた。
私は驚いてその手の先を見ると、そこには夕ヶ丘の制服を着た蒼くんがいた。
蒼くんが嫌なわけじゃないけど、今は夕ヶ丘の制服を見たくなかった。
八神さんを思い出してしまうから。
