「…笹倉には、叶わないな」



水原くんは私を見て小さく笑うと、懐かしそうに思い出しながら言った。



「俺と洸耶はバッテリー組んでた。俺が投げる球を捕れるのも、アイツだけだった。だから、夕ヶ丘でやっていける自信が、正直なかったんだよ。そしたら萌と、まああのことがあってさ」



あのこと…



「洸耶に謝って、俺は風凪いって、洸耶とバッテリー組もうって、決めた。でも、俺と洸耶の関係はボロボロ。こんなんじゃ…俺、野球できねぇなって、思った。野球から離れる。これが、俺の一番の道だなって、思ったんだよ」



そんな理由で、そんな簡単に、野球から離れられたの?



そんな想いで、野球をやってたの?



それってなんか、納得いかないよ…



だって、祐介くんが言ってた。



ーー『野球やってる流矢、マジでかっこいいんだぜ?アイツ、本気で野球好きだったから』

ーー『中途半端な気持ちでやるようなヤツじゃねぇよ、アイツは』



「洸耶以外でも、水原くんの投げる球を捕れる人は他にもいるよ!なんでそうやって、分かりもしないことを決め付けるの?」



思わず荒くなってしまう口調。



だって、本当にそれでいいのか、納得しないよ…



「…だけど、俺が安心して投げられるのは、洸耶だけだから」



私は、水原くんが野球をやってるところが見たい。



見たことないから。



水原くんが、どんな表情で投げるのか、見てみたい。