「…でもね、祐介くんも、分からないことがひとつだけあるって言ってた」
水原くんの親友の、祐介くんですら知らなかったこと。
「水原くん。どうして、野球やめたの?」
祐介くんですら、知らなかったこと。
それは、水原くんが野球をやめた理由だった。
ーー『流矢に1回だけ、聞いたことあるんだ。なんで野球やめたんだよって』
ーー『だけど、教えてくんなかった』
ーー『それからはなんか、聞きづらいっつーか…それが、流矢の為なんかなって、俺は思ってる』
私は知りたい。
だって、水原くんのことが、好きなんだもん。
水原くんの中で気持ちを押し殺して、これ以上辛い思いをさせたくない。
水原くんは、笑顔が似合ってるから。
「…俺にはもう、野球をやる意味なんてないよ」
水原くんは無表情でそう呟いた。
じゃあ…
「なんで私を、野球見に誘ったの?」
しかも、夕ヶ丘との試合の時に。
もしかしたら、八神さんを見に行ったのかなって、少し思ったりもした。
でも、分かってしまった。
きっと、水原くんは。
夕ヶ丘で、大好きな野球をやりたかったんだ。
