「全部って、どこまで聞いた?」
「…水原くんが八神さんのこと好きだったことも。水原くんと洸耶が仲良かったことも。洸耶と八神さんが両想いだったことも。水原くんが野球やってたことも。水原くんが野球やめたことも。夕ヶ丘の推薦蹴ったことも」
「…それだけ?」
「あと…水原くんが、八神さんを抱いたことも」
自分で言って辛かった。
でも、言われた水原くんは、もっと辛いはず。
水原くんを見ると、水原くんは、ははっと乾いた笑いを浮かべた。
「軽蔑した?」
「ううん…軽蔑はしないけど…」
「けど?」
「…悲しかった」
なにも話してくれない水原くん。
水原くんはいつだって、自分のことを話そうとしない。
それに。
水原くんにあんなに想われている八神さんが。
凄く、羨ましかった。
「…萌だけだった」
少しの沈黙のあと、水原くんが、声を発した。
「俺自身をちゃんと見てくれたのは、萌だけだった」
「…うん」
「いつも笑ってる萌にも惹かれてた。でも、萌は洸耶が好きで。俺が入り込む隙間もないくらいだった」
水原くんは私を見て、柔らかく笑った。
「本音言えば辛かったよ。でも、萌を想ってた時は楽しかった。毎日、笑ってた気がする。でも、あの日からボロボロになったけど」
あの日…
あの日って、あれだよね…
