「名前、教えてくれる?」
突然、八神さんが、笑顔でそう聞いてきた。
私は驚きながらも、一応答える。
「笹倉真湖です」
「真湖ちゃんかぁ。可愛い名前だねっ」
八神さんは「じゃあ」と、軽く頭を下げて、私の横を通り過ぎた。
「…ちょっと待って!」
私の横を通り過ぎた時。
私は咄嗟に、八神さんを呼び止めていた。
八神さんは振り向く。
綺麗な黒髪を、揺らしながら。
「水原くんのこと、好きなの?」
本当は分かってる。
八神さんは、洸耶が好きなことなんて。
ただ、不安だった。
もしかしたら。
水原くんのことが、好きなんじゃないかって。
八神さんはクスッと笑う。
そして、私の目を見て、真っ直ぐに言った。
「大丈夫だよ」
大丈夫って、どういう意味?
八神さんはそのまま、私の横を通り過ぎた。
曖昧な返事。
私にはよく、意味が分からなかった。
