それを目の前で見てきた水原くんの気持ちって。



どんな、気持ちだったんだろう。



水原くんは。



どんな気持ちで、八神さんを抱いたのだろう。



気付いたら私は、屋上の前に立っていた。



ひとりになれる場所は、ここしかないと思う。



今は楽しい文化祭の最中。



私は、楽しめる気分じゃない。



「…あっ」



屋上のドアの前に立っていると、屋上から、ある人が出てきた。



艶のある黒髪。



仔犬みたいにパッチリな目。



透き通ってるみたいに真っ白な肌。



小さくて、小柄で。



夕ヶ丘の制服を着た、八神さんが出てきた。



八神さんと、目が合う。



八神さんは目を細めて、可愛らしく笑った。



八神さんを見て思った。



叶わないな、って。



八神さんは、ジッと私を見る。



そして、首を傾げた。



「流矢に用?」



"流矢"



八神さんがそう、水原くんの名前を呼ぶだけで、苦しくなる。



「流矢なら、ここにいるよ」



そう言って、屋上のドアの向こうを指さす。



屋上にいるんだ。



ということは、屋上から出てきた八神さん。



ふたりは、さっきまで一緒にいたんだ。



どんな話をしていたんだろう。



なんの話をして、どんな笑顔を向け合っていたんだろう。