君に恋するその日まで


「まあ」

「ふふっ。相変わらず、無愛想だねっ」



萌がフェンスに寄りかかって座る。



俺もつられて、萌の隣に腰を下ろした。



「唯香から聞いたけど…野球、やめたんだね」



萌は悲しそうに笑う。



そうだった。萌には、言ってなかったんだ。



野球やめるって。



「まあ」

「さっきから、まあ、しか言わないなぁ。でも、なんでやめたの?」



なんでやめた、か。



俺には、野球をやる意味がもうないから。



それに、もう野球がない毎日が、俺には当たり前になっているから。



「流矢の野球やってるところ、好きだったのに」

「俺じゃなくて、洸耶だろ?」



萌は、黙って俯いてしまう。



こいつはまだ、洸耶のことが好きなのか。一途だよなぁ。



…なんでだろう。



不思議と落ち込んでいない、俺がいる。



「…流矢は、好きな人できた?」



俺をチラチラ見ながら聞いてくる。



好きな人。



一番最初に頭に浮かんだ人。



…笹倉だった。



「その顔は、いるんだ?誰誰?」



途端に瞳を輝かせる萌は、恋バナがまだ好きなのかよ。



てか、なんでこんなに普通に話してるんだろう。



「好きな人は今いないし。まあ、いたとしても気になる人止まり」

「ふーん。どんな子?」



どんな子…



「力強い瞳のやつ。んで、やけに心が綺麗なやつ」



笹倉は、そういうやつだ。



俺が空を見上げながら呟くと、視界の隅で、萌が小さく笑った気がした。



「…なんか、安心した」

「安心?」

「私たち…付き合ってないのに、あんなことしちゃったじゃん?だから…流矢がそのせいで、先進めなかったらどうしようって思ってて…ずっと、罪悪感でいっぱいだった」