担任も渋々納得して、俺の志望校は風凪に変わった。
隣には母さんが歩いている。
さっきから無言の母さん。
俺が野球やめることが、ショックなのかな。
「…流矢が決めたことだからいいけど」
黙っていた母さんが、口を開いた。
俺は視線を下に向ける。
「でも、野球から離れる理由くらいは、知りたいのよ」
「…」
「お母さんだけじゃないわ。お父さんも、気になってるのよ。お父さん、怖い人だけど、流矢が野球してるところを写真撮ってる時は、嬉しそうだったもの」
父さんの笑顔が脳裏に過ぎり、泣きたくなった。
父さんは、一番俺を応援してくれてた。
そんな父さんを、俺は裏切ることになるんだ。
でも…俺は。
最高の野球が、やりたかった。
「…後悔してねぇから。この選択で、間違ってない」
俺は母さんの目を真っ直ぐに見て、そう言った。
そして俺は今、高2になった。
野球もやらなくなった。
洸耶とも話さないまま。
萌とも会わないまま。
そして。
唯香が、俺のせいでいじめられるようになった。
それから唯香とも話さなくなり、唯香は笑わなくなった。
つまらない毎日が、ただ流れていく。
そんな時出会ったのが、アイツだった。
馬鹿みたいに綺麗な心をしていて。
見入ってしまうくらい綺麗な容姿をしていて。
輝いたような笑顔を俺に向ける彼女。
笹倉真湖。
彼女だった。
