「…流矢ん家行っていい?」
いきなり萌がそんなことを言うから、驚いてしまう。
俺の家って…ダメだろ、それは。
「あっ、流矢と話したいなって思って」
萌も言ってる意味が分かったのか、焦りながら顔を俯かせる。
「…じゃあ、行く?」
やっぱり俺は、萌に甘い。
萌は顔を上げて、ニコッと笑った。
萌が俺の家に来たことは何回かある。
でも、必ず唯香と祐介と洸耶がいたから、こうやってふたりきりなのは初めて。
俺だって男。
好きな女の子とふたりきりは…さすがにきつい。
俺の家につき、萌を部屋に上げる。
俺の親は医者だから、いつも家にいないことが多い。
今日も家にいないから、本当にふたりきりだ。
萌は俺の部屋に入るなり、いきなり俺のベッドに腰掛ける。
…ベッドはないだろ。
「萌、あのさ、こっち座れば?」
俺が近くにあるスペースを指差すけど、萌は首を横に振る。
「あのさ…萌分かってる?俺、男なんだよ。そんなところ座られるとマジで困るっつーか…」
「分かってるよ。だから、座ってるの」
…何言ってるんだよ。
「流矢…私、なんかもう分からなくなってきた。流矢に、慰めてもらいたい」
これ以上聞いたら、俺はもう、壊れてしまう気がする。
それなのに、萌は止まらなかった。
「ねえ、流矢ぁ…」
わざとなのか、無自覚なのか。
上目遣いで、瞳をうるうるさせて。
気付いたら俺は、萌をベッドに押し倒していた。
「俺も…分からなくなってきた」
「…流矢の好きにしていいから…」
俺の目の前で目を伏せる萌は、たまらなく俺の欲しい存在で。
捕まえたくても、捕まえられなくて。
追いかけても、追いつかなくて。
想っても、届かなくて。
でも、今日は。
今だけは、想いが通じ合うのかもしれない。
そう思ったら…俺の中で壊れた。
