「ねーねー!」
洸耶と祐介と野球部のヤツらと固まって話していると、元気のいい可愛らしい声が聞こえた。
この声は、俺が大好きなヤツの声。
視線を向けると、そこにはやっぱり、萌の笑顔が。
その隣には、ブスっとした唯香が。
唯香は本当に笑わないよなぁ。
俺は唯香に近付いて、唯香の頭を叩いた。
「いたっ!ちょっと、なに?」
唯香はギロリと俺を睨む。
昔からの癖だ。
唯香はすぐに怒ると俺を睨む。でも、その睨みは全く怖くない。
「唯香、せっかく美人なんだから、そんなブスっとしてないで笑えよ」
俺が笑うと、唯香は顔を赤くした。
珍しい。唯香が照れるって。
「ねえ、みんなで写真撮らない?私と唯香と洸耶と流矢と祐介で!」
萌が洸耶に満面の笑みを浮かべて聞く。
洸耶は優しい瞳を細めて、笑って頷いた。
「それいいな。よしっ、早く並べ!」
「はあ!?なにお前がしきってんだよ!ここは祐介様がポジション決めを…」
「なにが祐介様だ。背が小っちゃい萌と唯香が前で、俺らが後ろでいいっしょ」
祐介はそんな洸耶の言葉を無視して、前を陣取る。
土の上であぐらをかいて、元気よくピースをする祐介。
その後ろに萌と唯香が軽く座ってピースする。
俺と洸耶は立って、笑顔を浮かべる。
今までは、周りから言われる言葉が苦痛だった。
完璧だね。欠点とか短所なんてなさそうだよね。
人間じゃないんだって言われてるみたいで、嫌だった。
でも、萌に出会って変わった。
萌は、俺自身をしっかり見てくれた。
こんなに世界がクリアに見えたのは、初めてだった。
「萌。流矢とふたりで撮ってくんない?」
写真が撮り終わったと思ったら、唯香がとんでもないことを言った。
俺が唯香を見ると、唯香はふふっと笑った。
「萌のこと好きなんでしょ?バレバレ。記念に撮らないと、後悔するよ」
萌は俺にしか聞こえない小さな声で言う。
やっぱり、唯香にもバレてたんだな。
俺は唯香に笑顔を向ける。
唯香は少し悲しそうな笑顔を返してきた。
「流矢!撮ろう!」
萌が笑顔で駆け寄ってくる。
俺は洸耶を見た。
洸耶は、笑っていた。
お前の好きなやつが、俺と撮るのに。しかも、ふたりで。
洸耶はヤキモチを妬かないのだろうか。
…洸耶のことだから、そんなことはないんだろうな。
心が広くて綺麗な洸耶は、いつだって他人を責めない。
俺とは正反対だ。
洸耶…ごめん。ありがとう。
俺は心の中で呟いて、萌の隣に並んだ。
「はいはーい!撮りますよー」
カメラを持つのは祐介。
俺は隣に並ぶ萌を、見下ろした。
俺よりも全然小さい萌。
150もないくらい、チビなんだよなぁ。
萌の頭には、俺と同じオレンジ色のハチマキ。
俺は視線をカメラに移して、笑った。
萌が隣にいるだけで、こんなにも笑顔になれる。
この時の俺は、一番笑っていた気がする。
