俺は昔から、いらないものがすぐに手に入り、欲しいものが全く手に入らなかった。
俺の少し後ろを歩く彼女。
俺が掴んでいるその腕は…中3の時と変わらず細くて、白くて。
俺が欲しくて…たまらなかったヤツ。
八神萌。
俺の初恋は萌。
もちろん、本気で好きになったのも、萌だけ。
久しぶりに会う萌は…中学の時と全く変わってなくて。
萌を好きだった時の自分を、思い出してしまう。
それと同時に、あの辛い思い出が…蘇ってくる。
「流矢、背伸びたね」
俺が萌を引っ張りながら廊下を歩いていると、萌は後ろでクスッと笑う。
まあ、中学の時よりは伸びたけど。
萌は俺の隣に来ると、俺を見上げた。
「それに、前もかっこよかったけど、またかっこよくなったね」
萌。
お前はまだ、洸耶が好きなんだろ?
かっこいいなんて、俺なんかに言う言葉じゃねぇだろ。
隣にいる、小さな萌。
萌のことなんか、忘れたつもりだった。
でも、いざこうして会うと、萌のことが好きなのか好きじゃないのか、分からなくなった。
「流矢と会えて、よかった」
俺は…会いたくなかったよ。
なんで、あんなことしちゃったんだろうって。思ってしまうから。
…あの日。俺にとって、忘れられない日になった、あの日。
…萌が、洸耶に、フラれた日。