思い当たることは、なにもないんだけど…
「…本当に、男と回んの?」
…えっ?
水原くんは私を真っ直ぐに見つめてくる。
なんで、そんなこと…
なんでそんなこと、聞くの?
「ま、まあ…」
水原くんは不機嫌そうな顔になる。
…ずるいよ。
八神萌ちゃんのことが好きなのに。
そんなこと、聞かないでよ。
そんな表情、しないでよ。
私バカだから、そんなことだけで期待しちゃうんだよ。
「…なんか分からないけど、胸がモヤモヤする」
水原くんは私を見て小さい声でそう言う。
そして、ぶっきらぼうに視線を逸らした。
私が誰と回ろうが、水原くんには関係ないよ。
そう言えばいいのに、言えない。
だって私は…水原くんと回りたい。
「水原くん…」
「流矢?」
私の声と、誰かの声が重なった。
水原くんは私の後ろを見て、驚いたように目を見開く。
緋奈乃といつの間にか言い合っていた祐介くんも、私の後ろを見て言葉を失っている。
…なに?
私も振り向く。
私の少し後ろには、小柄の可愛らしい女の子が経っていた。
柔らかそうな黒髪、大きい目、真っ白な肌、華奢な体。
その子を見た瞬間、頭に浮かぶ。
水原くんの家で見た、あの写真。
水原くんの隣に並ぶ女の子。
オレンジ色のハチマキ。
水原くんの、見たことがない楽しそうな笑顔。
「流矢、だよね?」
この子が…水原くんの、好きな人。
ーー八神萌。
