驚いて水原くんを見ると、水原くんはジッと私を見つめてきた。
そして、眉を下げた。
「なんで、泣いてんの?」
えっ?
泣いてる?
私は自分の頬を触る。
人差し指には、冷たい感触。
人差し指を見ると…濡れていた。
私…なんで、泣いてんの?
「なにがあったんだよ。なんで、泣いてるんだよ」
水原くんの手が、私の頬に伸びてくる。
水原くんの手が私の頬に触れる前に。
私は水原くんの手を、払いのけた。
「緋奈乃の話が、面白くてさ!思い出し笑い的な?私、笑うとすぐ涙出るんだよねー」
私は早口でそう言い、水道で手を洗う。
手を洗いながら、涙がたくさん頬を伝う。
水原くんが私を好きじゃないことくらい分かってるよ。
分かってるけど…
八神萌ちゃんのことを想ってる水原くんを見るのが、凄く辛い。
私、水原くんのことが、好き…?
…違う。そんなんじゃない。
水原くんなんて、好きにならない。
水原くんは、私にとって、ただの友達。
そうだよ。
涙が出てくるのは、大事な友達が傷ついているところを見たからだよ。
うん。きっとそうだ。
「…真湖ちゃん」
祐介くんが、何か言いたげな表情で私を見る。
私は指で涙を拭って、笑顔を向けた。
「文化祭の準備早く行かなきゃ。ふたりも、早く戻った方がいいよ?」
私はそう告げて、早足で教室に戻った。
