「…いつからいたの?」



水原くんは、無表情で私を見る。



その表情が怖くて、背筋が凍る。



でも私は、それでも笑顔を保った。



「あ、あは。いつからって…今来たところ!ペンキで手汚しちゃって、急いで手洗いにきたら、ゴミ箱倒しちゃって!驚かしてごめんね」



私はふたりに手を向ける。



良かった…ペンキ使ったから、少しだけ手が汚れてて。



苦しい言い訳。



でも、盗み聞きしてたなんてバレたら…怒られる。



「じゃあ、何も聞いてない?」



そんなに、聞かれたくないことなんだ。



「うん?聞いてないよ。てか、何の話ししてたの、逆に」



私はははっと笑う。



私って、嘘上手いなぁ。



嘘が上手いだなんて、自慢できることじゃないのにね。



でも、今だけは、嘘が上手いことを誇りに思える。



水原くんは私の答えに安心したのか、いつもの笑顔を浮かべる。



私は水原くんの横を通り過ぎて、水道に向かった。



その時。



水原くんの横を通った瞬間。



水原くんに、腕を掴まれた。