水原くん。



水原くんは、私のことを心が真っ直ぐな人って言ったよね。



俺には眩しすぎるくらい、良いヤツだって言ったよね。



そんなことないよ。



私は、真っ直ぐな心の持ち主でもなければ、眩しすぎるくらい良いヤツなんかでもないよ。



私にとって。



水原くんはいつだって真っ直ぐな人だった。



私には手の届かないくらい、良い人だった。



私は…水原くんが思うような人じゃない。



凄く弱いし、ちょっとしたことでビクビクして。



いじめられている人を見て、助けられないような。見て見ぬフリしてる人と同じ分際。



そんな…強くなんかない。



でも。



私は水原くんに、そう思われてたんだね。



それだけでも…嬉しいと思ってしまう私は。



単純なのかな。



「…そっか。じゃあ…萌のことは、まだ好きなのか?」



また沈黙が流れる。



私の時はすぐに否定したのに、八神萌ちゃんの時は、水原くんは中々答えない。



しばらくして、水原くんは言葉を発した。



「…今だに思い出すんだよ。萌と話したくだらない会話とか、萌がいた教室とか、萌の笑顔とか…忘れられないんだよ」

「じゃあ、好きなんだろ?今も」

「…今、萌に会ったら、目で追っちゃうと思う。これってさ…俺は今も萌のことが…」



その続きの言葉なんか、聞きたくなかった。



私は反射的に、近くにあったゴミ箱を倒してしまった。



ヤバイ、と思った時にはもう遅くて。



祐介くんはハッと顔を上げて、水原くんは…ゆっくりと振り向いた。



ふたりの視線が、痛いほど私に突き刺さる。



私は顔を上げて、わざとらしく笑顔を見せた。