私はA組から離れて、騒がしい廊下を歩く。
文化祭で賑わう校舎。
幸せそうに笑う女の子。
その女の子の隣で、女の子を優しい瞳で見つめる男の子。
あのふたりは、付き合っているのだろうか。
それとも、ただの友達なんだろうか。
分からないけど。
幸せそうなふたりを見て、羨ましい気持ちでいっぱいになってしまった。
「はい。これ、祐介」
水道前の広いワークスペースで、聞き慣れた声がしたから、思わず声の方を見てしまう。
そこには、やっぱり、水原くんの後ろ姿が。
その向かいには、半袖のジャージを肩まで捲る、気合い万全な祐介くんも。
ふたりはダンボールにペンキで落書きしてるみたいで、楽しそうに話していた。
「はぁ⁉︎俺、こんなハゲてないわ!」
「いや、これハゲじゃなくて、坊主のつもりで書いたんだけど」
「どう見たってハゲて見えんだけど!いぃー。じゃあ、これ流矢な!」
「は?やめろよ、俺、そんなに髪長くない」
ふたりはお互いの顔でも書いてるのか…
ブーブー文句を言い合っては、笑っている。
仲良いよねぇ、あのふたり。
かっこよくて明るいふたりだから、目立つのは当たり前。
ふたりで廊下を歩いている時なんか、周りのオーラがキラキラしている。
「あっ、そーいえば」
隠れてふたりの会話を聞いていると、祐介くんの声が、いきなり小さくなった。
水原くんは興味なさそうに「んー」と呟くだけ。
でも、祐介くんの表情は、いつになく真剣だった。
「昨日、萌に会った」
ーーー……
周りの時間が、止まった気がした。
静寂に包まれる。
遠くの方から聞こえる、生徒の笑い声。
それなのに。
水原くんと祐介くんのふたりだけは、ただ黙って目をを合わせていた。
水原くんは私に背を向けているから、どんな表情をしているのか分からない。
でも、祐介くんの表情が真剣だから。
水原くんも、同じ表情をしているんだと思う。
