✴︎ユメside

「ほら!手出して!」
彼が私の手を無理矢理握って薬を塗り始めた。
私はされるがままに彼を見ていた。
時々彼の瞳が視界に入る。
太陽の光を反射した紅い瞳。
その瞳が目に入る度に不思議な感覚に襲われた。
「よし。おわり!」
彼は薬をポケットにしまって、立ち上がり私の後ろに回った。
「…。」
私は彼の動きに合わせて目線を動かす。
彼が後ろに立った時。
ちょうど私が彼を見上げ、彼が私を見下ろす状態で目が合う。
え…。
「…。」
「…何?」
彼はきょとんとした顔で尋ねてきた。
「…いや。何も…。」
私は顔を下げた。
「あ!そうだ!あの、あなた名前は?」
あ、言うの忘れてた。
「…ユメ。白井夢。」
「ユメ…さんね。俺は日野架乃。」
カノ…?
「…変な名前。」
そう言って私はクスッと笑う。
「よく言われる。」
そういって彼も笑った。
「ヒノカノ。」
「何?」
「やっぱ変な名前。」
「うるせえな。車椅子押さねえぞ。」
彼はそういって笑いかけてきた。