俺は、さっきの痛みをこらえながら言った。
「車椅子押して。」
…なんだそんなことか。
「…。」
俺が黙ってしまうと彼女はさらに言う。
「ねえ。」
なんだこの非常識な女の子。
「…ちゃんと頼めよ。」
「…は?」
「…ちゃんと頼め。いきなりなんだ。あんたに礼儀はないのかよ!」
こんなこと言うのは偉そうかと思ったけどムカついて口に出してしまう。
彼女は辺りを見回した。
平日の昼間。商店街にいる人は少なくて腰の曲がったお爺さんやお婆さん、井戸端会議に夢中になるおばちゃんばかり。
俺以外に押してくれる人を探したみたいだった。
でも若い姿の人は俺しかいない。
彼女はそれを確信してため息を付いた。