なんでそんなことにすぐに気づけなかったんだ。
どうせあの子の告白を断るのだから『きりちゃんはいい子だよ?』なんて言ってあげないでほしい。きっと私がそのきりちゃんだったら期待してしまう。
「桐生くん。付き合ってくれる…?」
「…ごめんね、…俺…、」
桐生渉が続きの言葉を出すための酸素を肺に取り入れる音がした。
でも私は答えが怖くて。告白した本人でもないのに、
逃げた。
すれ違った瞬間に桐生渉と目が合った。
初めて学校で桐生渉の目を見た。桐生渉は目を見開いていた。
しかし私はそれがたえられなくて目をそらした。
なんでこんな時に目が合うの。こんな泣きそうな顔見られて。怖いんだ。こんなにも桐生渉が好きな自分が。
彼女がいるのは重々承知だ、写真だってみた。でも、桐生渉本人から彼女さんの話はきいたことはない。だから、本人からその存在を聞くのが心から怖い。
…こんなのらしくない。



