志信くんは母親の想いを受け取ると、祭壇に向き直って厳かに祝詞を唱え始めた。
儀式というのが身の毛のよだつような禍々しいものだったら、私はその場から逃げ出していただろう。
けれど、志信くんに纏う雰囲気には邪悪なものは一切なく、むしろ薄汚れた都会の空気を浄化するような清々しさを感じさせていた。
私は衝立の影から固唾を呑んで儀式を見守っていた。
(これから何が起きるの……?)
彼は私に見届けて欲しいと言ったけれど、何を見届けたら良いのだろう。
(本当に治るのかしら……)
あの偉そうな中年男性の肩をもつわけではないが、不安になってくる。
祝詞を唱えている今も、少年に変わった様子はない。
相変わらず顔色が悪く、死んだように眠っている。健康ならば悪戯の限りを尽くす年頃だろうに、骨と皮しかない細い腕が痛々しかった。
助けてあげて欲しいと思うのは私のエゴなのか。考えている内に、祝詞が終わりを迎えた。



