お風呂に入り、髪を結いあげられ、化粧を施されると、理由も分からぬまま用意された着物を着せられた。
そして今、私は本宅へと続く渡り廊下を八重さんの後ろについて歩いている。
本宅は離れとは比べ物にならないくらい広かった。
どこを見ても同じような廊下ばかりが続いていて、目がぐるぐると回ってしまいそうになる。ここは本当に都会なのかと疑いたくなってくる。
支度をしている内にすっかり夜も更けてしまい、電灯がなく薄暗い廊下には足元を照らすようにポツポツと灯籠が設置されていた。
その景色は壮観だった。
伝統建築である建屋に馴染むような淡い光は、外界からこの家を守るようにどこまでも広がっていた。
「こちらです」
八重さんは迷うことなく目当ての部屋までたどり着くと、部屋の主に向かって告げた。
「小夜様をお連れ致しました」
「……入れ」
部屋の中から聞こえたのは志信くんの低い声だった。
許可を得ると八重さんの手によって、スッと板戸が引かれる。



