“もしかして、彼氏でも出来たの?”
(“彼氏”ねえ……)
さも楽しげな都築さんの言葉が私を更に悩ませる。
“彼氏”という割り切れる存在の方がまだ良かった。
“カグヤ”と“カグヤ憑き”の因縁は、時を超え、世代を超え、幾年経っても切れることのない鋼の鎖のようだ。複雑に絡み合った鎖は解けることがあるだろうか。
“カグヤ憑き”にとって“カグヤ”は愛することを義務付けられた宿命の女だ。
(志信くんは“カグヤ”のことをどう思っているのかしら……)
奇跡としかいえない不思議な力を持ち、神の前で堂々と舞を披露する志信くん。隙あれば私に触れたがる、ちょっぴり生意気な年下の青年。
(私……全然、志信くんのことを知らないや……)
彼の趣味も。通っている大学も。好きな音楽も。誕生日も知らない。
(聞いたら答えてくれるかしら……)
願わくば志信くんにも聞いてもらいたい。
桜木小夜は何が好きで、何が嫌いか。何を思い、何を考えているのかを……。
私は祈るようにそっと目を瞑ると、干した布団の上で身体を丸めた。



