私の決死の交渉は不発に終わった。
「だから言っただろう?俺と結婚するのが一番手っ取り早いって」
志信くんは呆れ気味に言うと、ここぞとばかりに距離を詰めてきた。詰められた距離と同じだけ後ろに下がると、背中が壁についてしまう。
「そういう訳にもいかないでしょう?お金の為に結婚したって、志信くんも迷惑だろうし……」
「俺はどんな形でもいいから、あんたが欲しいけど」
耳元で甘く囁かれると、腕を引かれてそのまま抱き寄せられる。
……こういうところが怖い。
志信くんと話していると、どうしてか冷静でいられない。
志信くんの目が情熱で染まる度に、“カグヤ”が欲しいのか、“小夜”が欲しいのか、わからなくなってしまいそうになる。
髪を撫でる仕草は壊れ物を扱うように繊細なのに、抱きしめる力は男らしく力強い。
私は志信くんが離してくれるのを、息を潜めて待った。



