……ものの数秒で終わるはずの動作を、こんなにも躊躇ったのは自分でも意外だった。
胸に湧き上がってくるのは、この上ない寂しさと走馬灯のような思い出だった。
(楽しかったな……)
新卒から働いてきた職場を立ち去る時がやって来るなんて、もっと先のことだと思っていた。
口が災いの元の社長。肝っ玉母さんの都築さん。お調子者の波多野くん。
転職するって聞いたらなんて言うのかな。怒るかな、笑うかな、悲しむかな……。
想像するだけで、ホロリと涙が滲みでそうになる。
……ああ、ダメだ。転職する決心なんてできない。
マウスを片手に悶々と考えていると、液晶にふいに影が差した。
「何を一生懸命調べているんだ?」
「志信くん!!」
「転職サイトか?」
これ以上見られるまいと、急いでノートパソコンの画面を閉じた。
時計を見ると、既に夜の12時を過ぎていた。どうやら、熱心に閲覧している内に深夜に突入していたらしい。
豊姫の姿もいつの間にか見えなくなっている。志信くんがやって来たから隠れたのだろう。



