今宵も、月と踊る


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自分の市場価値を知る、という無謀な行為に及んだのはその夜のことだった。

「やっぱりないよね……」

検索結果0件の文字が無情に点滅する。

力を落とし文机に突っ伏して、現実逃避気味に文机の木目を数える。壺を割ってしまったあの日の自分が憎い。

転職サイトのページを目の前にして、私は落胆のため息をついた。

分かりきってはいたけれど、いざ結果を突きつけられるとやはりへこむ。

今よりお給料の高い職場はないものかと一縷の望みをかけて調べてみたが、あっけなく玉砕することとなった。

特別なスキル、特殊な資格も持たない20代後半女性(事務職)を高給で雇う企業はない。

あったとしても、とてつもないブラック企業か、事業内容の不確かな、いかがわしい企業だ。

(五千万なんて返せるわけないじゃん……)

絶望に打ちひしがれる私の頭をよぎるのは志信くんのあのセリフだった。

“俺と結婚でもすれば良いだろう”

(ない!!それは絶対にない!!)

己に言い聞かせるように、頭を思い切り横に振る。