今宵も、月と踊る


「まあ、波多野くんには朗報かしらね」

「何でそこに波多野くんが出てくるんですか」

「ご覧なさいよ。あの波多野くんの残念そうな顔を」

都築さんがほらほらと促すから、こっそり波多野くんの顔を見てみる。

見られているとも知らず、波多野くんは大きな欠伸をフロアにいる人みんなに披露していた。

「いつものアホ面にしか見えませんけど……」

「やだ、桜木さんって案外にぶいのね。あれは傷心の男の顔よ」

(……絶対、面白がってる)

からわれたことに気が付いて、パソコンの液晶に視線を戻す。

「はいはい。さっさと仕事して定時で帰りましょう。可愛いお子さんが首を長くして待ってますよー」

私は発破をかけるように、都築さんのデスクに未処理の請求書を置いたのだった。