「ねえ、桜木さん。もしかして、彼氏でも出来たの?」
……都築さんが急に尋ねてくるから、コーヒーを吹き出すかと思った。
「まさか!!」
即座に否定したというのに、都築さんはなお疑いの眼差しを向けてくる。
志信くんを“彼氏”とは呼べないだろう。
というか今まで“彼氏”という発想がなかった。
「なーんだ。最近、きっちり定時で帰るし。土曜日も予定があるっていうから、てっきりデートなのかと思ってた」
「そういうんじゃないです」
彼がご執心なのは私ではなく、あくまでも“カグヤ”だ。
私は志信くんの所有欲を満たすためだけの存在にすぎない。
籠の中の鳥。それは、とても愛とは呼べない。
“カグヤ憑き”は“カグヤ”以外の女と添い遂げることを許されない。
伝説の一節を志信くんは固く信じている。



