“小夜……起きて……”
目を閉じてうつらうつらしていると、誰かに名前を呼ばれたような気がして寝返りうつ。
……志信くんだろうか。
逃げないから夜はひとりで寝かせてとお願いしたのに。
私が会社に行くのがよっぽど嫌だったのかしら。今日は家に帰ってからというものやたらと引っ付きたがって、まるで刷りこみ済みの小鳥のようだ。
この調子だとその内に会社にまでついてくると言いかねない。
“小夜……”
(分かったわ……。今、起きる……)
起きたら思い切りお説教してあげるから、覚悟してね。
寝ぼけ眼を擦りながら愛しの布団様から身体を起こすと、志信くんに文句を垂れる。
「もう……。だからひとりで寝たいんだってば……」
しかし、障子から漏れる月明かりに照らされていたのは志信くんではなかった。



