「きゃあ!!」
私は悲鳴を上げながら、その場から後ずさった。ぶつかった反動で棚の上に置いてあったものがバラバラと床に散らばる。
「どうした!?」
騒ぎを聞きつけた志信くんがどさくさに紛れて脱衣所に押し入ってきた。
……なんて奴だ。
「出ていってよ!!この変態!!」
私は幽霊のことも忘れ、己のあられもない様子を見られるまいと、手当り次第に物を投げつけた。
「うわ!!やめろ!!」
志信くんが怯んでいる間にバスタオルを手繰り寄せて、グルグルと身体に巻きつける。
「勝手に入って来ないでよ!!」
「悲鳴が聞こえたら入るに決まっているだろう?」
「それは……そうだけど……」
冷静になってもう一度、鏡を覗き込む。そこには困ったような自分の顔と、散らかった脱衣所の床が見えるだけだった。
「何かあったのか?」
「ううん、何でもない……」
やはり、気のせいだったのだろう。あれほど騒ぎ立ててしまったことが、急に恥ずかしくなってくる。
「一緒に入ってやろうか?」
「……それは遠慮しておく」
幽霊より志信くんの方がよっぽど面倒だった。



