夕食を済ませ風呂に入る段になると、志信くんは私の予想に違わず、一緒に入ると頑なに言い張った。
「いいだろう?」
「良くない!!」
締め出すようにピシャリと風呂場の引き戸を閉める。
なにをどう考えたら一緒に風呂に入っても良いという思考になるのか、教えて欲しいくらいだ。
腹立ちまぎれに脱衣籠に服を放り込む。
ブラジャーのホックを外そうとすると、胸元に目が釘付けになった。
橘の文様。この身に宿る“カグヤ”の証。
昨日よりも濃くなっていないか?
もっとよく見ようと洗面台の鏡に近づいてみる。髪を片側に寄せて、膨らんだ花弁の部分を撫でる。
(気にしすぎかなあ……)
ゴツンと額を鏡に当てる。
志信くんと同じように私も“カグヤ”に過敏になっているのかもしれない。
“小夜……”
ほら、幻聴まで聞こえてきた。
(疲れているのかも……)
自分でも知らない内にストレスを貯め込んでいるに違いない。
気を取り直して風呂に入ろうとホックに手を伸ばした時、私の身体は凍り付いたように動かなくなった。
“小夜……”
……鏡に映った女性と束の間、目が合ったからだ。



