今宵も、月と踊る


**********

定時ピッタリに迎えに来た車に乗って帰宅すると、既に志信くんが部屋で待っていた。

「遅い」

不機嫌そうに言われても、こちらだって困る。

「道路が渋滞で混んでいたのよ」

道路交通事情まで責任持てるわけないだろう。神か、私は。

バッグを置いてスプリングコートを脱いでいると、志信くんに背後から抱き寄せられる。

「逃げたのかと思った」

「に、逃げるわけないでしょう。壺割っちゃったのは私だし……」

ドギマギしながら答えて、志信くんの腕から逃れる。

そのまま廊下に向かって歩きだすと、どうしてか志信くんが後ろをついてきた。