今宵も、月と踊る


定期預金の口座には四百万ほどの現金があったが、これを元手にしてどうやって増やせばよいのやら。

為替や株、不動産投資の類は専門知識が必要だし、宝くじはなんと言っても当たる確率が低すぎる。

今は可及的速やかに現金を用意する必要がある。

付け入る隙を与えたのは私だが、だからと言って自由を奪われたままで良いはずがない。

“カグヤ憑き”に“カグヤ”を拘束する権利はないはずだ。

私は平穏無事な生活に戻りたかった。

「ほら、これやるよ」

よっぽど暗い顔をしていたのだろう。波多野くんが同情して、栄養ドリンクの小さな瓶をデスクに置いた。

「すっげえ効くぜ」

日頃からお世話になっている波多野くんのお言葉には妙な重みがあった。

(本当に効くんだか……)

一抹の不安がよぎるも私は藁にもすがる思いで腰に手を当てて、栄養ドリンクをグイッと飲み干した。