今宵も、月と踊る


「ただいま」

最寄り駅から徒歩8分の1DKのアパートに帰っても、“おかえり”と答えてくれる声は当然ない。

一人暮らしの気楽さと寂しさを同時に味わう瞬間だ。

コートを脱いでハンガーにかけると、モコモコ素材の部屋着に着替える。

冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出してグビグビと喉を鳴らして飲み干してしまうと、行儀悪く部屋着の袖で口を拭く。

アパートに着いて気が抜けたのか、急に頭がふらついてくる。

「飲み過ぎたかも……」

今夜はさっさと寝てしまおう。

彼氏がいようといまいと、明日も働かなければいけないのだから。