「私……」
(これが“カグヤ憑き”の力なの……?)
伝説をお伽噺と笑い飛ばすのは簡単だった。でも、志信くんにとっては逃げようのない現実の話なわけで……。
胸元に咲いた橘の花。
“カグヤ”と“カグヤ憑き”。
不思議な因果で結ばれた私達はどこに向かっていけば良いのだろう。
私は壺の欠片を拾い集める志信くんの背中を黙って見つめるしかなかった。
「あの……壺は弁償します……」
「あんたに出来るのか?人間国宝が作った壺だぞ?」
(人間国宝!?)
なんでそんな大層なものがご家庭にあるんだ。
いや、離れや日本庭園もあるくらいだから人間国宝のつくった壺もあるかもしれない。
「い、いくら?」
「正確なところは分からないが、五千万はするだろうな」
(ご、ごせんまん!!)
就職してから貯めていたお金をかき集めても、せいぜい数百万にしかならない。
(ど、どうしよう……)
とても弁償できる金額ではない。
取り返しのつかないことをしてしまったとおののいていると、志信くんが耳元で囁く。
「この家にいると承知するなら、なんとかしてやるよ」
あやしく笑って誘惑する様は、悪魔のように小憎たらしい。
……志信くんはとんだ食わせ者だった。
「さあ、どうする?」
私に残された選択肢はひとつしかなかった。



