「いやっ!!離して!!」
「落ち着け!!」
捕まったことに動揺して軽いパニック状態に陥った私は、これでもかというくらいもがいて暴れた。
その拍子に廊下に飾られていた壺に腕が当たる。
壺は台座から転がり落ちて床に叩きつけられると、ガシャンと音を立てて割れてしまった。
私はようやく我に返ると、自分のした失態に青ざめた。
「ごめんなさい!!」
焦って割れた壺の破片をかき集めていると、指先に鋭い痛みが走った。
「っ……」
「切ったのか。見せろ」
2センチほどの切り傷からは薄らと血が滲んでいた。
志信くんが私の手を取って、傷に手をかざす。ほわっと温かいものが流れこんできた気がして目を見開いた。
志信くんの手がどかされると、なんと傷口は跡形もなく消えていた。
「これで分かっただろう?俺が愚直に伝説を信じている理由が」
志信くんは呆けている私の代わりに割れた壺の欠片を拾い集めていた。



