今宵も、月と踊る


どんなに否定しても私は“カグヤ”で。

“カグヤ”である以上は、“カグヤ憑き”である志信くんの思う通りに生きなければならないのか。

「私……帰る……っ……。帰りたい……」

……帰りたかった。

住み慣れた1DKの部屋に。高価なものはないけれど、安心できる愛おしい空間に帰りたかった。

私は夕膳を食べている途中だというのに、立ち上がって廊下へと飛び出した。このままここにいたら、二度とあの部屋に帰れないような気がしたからだ。

板張りの廊下をあてもなく彷徨い始めれば、志信くんがすぐさま後を追いかけてきた。

「お願い!!来ないで!!」

必死の懇願はいたずらに空気を震わせるだけだった。そもそも、懇願に耳を貸すようならこんなところに初めからいない。

どうしよう。走っても、走っても出口が見つからない。

この離れのことを知り尽くしているのは志信くんの方だ。このままではあっという間に距離を詰められてしまう。

大声で助けを呼ぶ?靴がないけれど庭園に飛び出してみる?

どうするか決めかねていると、障子から手が伸びてきて私の右腕を掴んだ。