今宵も、月と踊る


……話を聞いた私は絶句するしかない。

「もしかして、その伝説を信じているの?」

「そうだ」

志信くんが大真面目に答えるものだから、堪え切れずにぷっと吹き出してしまう。

ダメだ。一度笑い出すと、止まらない。

「そんなにおかしいか?」

「ごめんなさい。笑うつもりはなかったんだけど、あまりにも突飛すぎて」

大昔の伝説を信じているなんて、なかなか可愛いところがあるじゃないか。

「私は見ての通りただのOLよ?何の力もないわ。今まで“カグヤ”とは無縁だったのに、信じろっていう方が無理な話よ」

ずっと平凡なOL生活を送ってきたのに、急にお伽噺のようなものを聞かされたって、はいそうですかと納得できるはずがない。

「でも、あの時俺の呼びかけには応えたじゃないか」

「それは……」

「あんたには“カグヤ憑き”である俺の声が聞こえた。それこそが“カグヤ”である、なによりの証だ」

志信くんと呼応するように、胸元の橘の痣がチリチリと痛みだす。

こちらが現実だとしきりに伝えようとしているようだった。

……何だか泣きたくなった。