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「飯でも食うか?」
先に口を開いたのは志信くんだった。
こんな時でもお腹は空く。私はお言葉に甘えて食事を頂くことにした。
志信くんが枕元に置いてあった呼び鈴を揺らすと、どこに控えていたのか使用人らしき着物を着た女性がやって来た。
「食事を運んでくれ」
呼び鈴が聞こえる距離に控えていたということは、これまでのやり取りは全て聞いていたはずなのに、橘川家の使用人は眉ひとつ動かさない。
「かしこまりました」
そう答えると、彼女はしずしずと部屋から下がっていった。
「用がある時は鳴らせばすぐ来る」
志信くんが年齢の割に妙に権高で、命令しなれているのは傅かれることが当たり前な環境にいるからだろう。



