「いいや、あんたが“カグヤ”だ」
「やだ!!何するの!!」
抵抗虚しく志信くんの手が浴衣の合わせを強引に開いていく。
「見ろ、橘の文様だ」
露わになった左の胸元を、うっとりとした手つきで撫でられる。
直径2センチほどの赤い痣は、確かに花のような形をしていた。今朝までこんなものはなかったはずだ。
私のあずかり知らないところで何かが起こっている気がして身が竦む。
(もう、嫌だ。何もかもが怖い)
「どうした?」
「触らないで!!」
頬に触れようとした手を乱暴に振り払う。
神社で倒れ、どこかも分からない屋敷に連れてこられ、胸元に変な痣までできた。家に帰りたくても思い通りにはならないし、志信くんは私の話など聞こうともしない。
“カグヤ”なんて知らない。私は私だ。28年間桜木小夜として生きてきたし、これからも生きていく。



