今宵も、月と踊る


「ここにいるんだ」

こちらの心中などお構いなしに志信くんが決断を迫ってくる。

両肩に乗せられた手に体重がかけられると、私の身体はコロンと後ろに転がって、布団の上に髪の毛がふわっと広がった。

(あれ?もしかして押し倒されてる?)

状況把握が遅れたせいで、既に馬乗りになった志信くんに抗うことも出来なかった。

「“カグヤ”、あんたは俺の物だ」

揺れる瞳が私を射抜く。濡れた唇が次第に近づいてくる。

独占欲を感じさせる台詞に、頭が沸騰しそうになる。

こういうシチュエーションでなければ、あっという間に溺れてしまえるのに……。

「ちょっと!!待って!!」

これ以上接近を許してはなるまいと、志信くんの口元を手で押さえる。

「……“カグヤ”って誰のこと?人違いでしょう?」

大体、私の名前は小夜だと自己紹介したばかりではないか。

もし、“カグヤ”と私を間違えているのなら、それは正さないといけない。