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再び目を覚ますと、また布団に寝かされていた。しかも今度は浴衣に着替えさせられている。
(うわ……。アホか、私は)
人さらいを前にして眠りこけるなんて、どうぞと言わんばかりに身を差し出しているようなものだ。
己の迂闊さを呪いたくなるが、ぐっすり寝たおかげで体調が回復したので結果オーライとしよう。
私は布団から身体を起こすと、部屋の様子に目を向けた。
12畳の和室にはレトロな鏡台、文机、傘の点いた電気スタンド、床の間には掛け軸といった調度品が置かれていた。
旅館のようにテーブルや座椅子はなく、箪笥のような日常の家具は見当たらない。
障子の先には板張りの廊下。さらに奥には硝子戸に仕切られるように日本庭園が見える。
どこをどう見回しても、持っていたバッグと着ていた服は見つからなかった。
(どうしよう……)
財布の中には免許証もクレジットカードも保険証も入っている。万が一悪用されたら困るものばかりだ。
サーっと血の気が引いていく。
部屋を出て探しに行こうかと考えたその時、日本庭園とは反対側にある襖が開いて私をこの場に連れてきた悪党が顔を見せた。



