私と志信くんの元に新しい命が誕生したのは、日差しの穏やかな春の日のことだった。

「元気な女の子ですよ!!」

助産師さんは初産に耐えきった私に向かって誇らしげに言った。

「小夜、頑張ったな」

私の額の汗をタオルで拭う志信くんの目尻にキラリと光るものが見えた。

今日から彼も父親だ。感慨深いのだろう。

なにせ、正宗くんと真尋さんも呆れるほど出産にまつわる雑誌を読み耽っていたそうだから。

まだ学生の志信くんに父親の自覚を持ってもらうことは難しいのではと思っていたが、余計な心配だった。

「さあ、感動のご対面ですよ!!」

助産師さんは赤ん坊の顔を拭くと、親子の初対面を演出するためにタオルに包んで抱っこした。

“小夜!!”

おんぎゃーとか、ばぶーみたいな泣き声を想像していた私はすっかり虚をつかれた。

(まさか……)

あり得ないことはない。

私は橘川家にお嫁に来る前から数々の奇跡を目の当たりにしてきたのだから。

「……豊姫?」

“また会えて!!嬉しいわ!!”

看護師さんの腕の中から懸命に手を伸ばしている壊れそうに小さな身体が愛おしい。

「私もよ!!」

……こうして新しい絆が今日も生まれていくのだった。


END