今宵も、月と踊る


「初めまして、若宮です」

来客用の駐車場にはレンタカーと、貴子の旦那様と思われる男性が首を長くして待っていた。

「あなたが桜木さんですね。貴子からよく話は聞いていますよ」

「どうも……」

埃まみれのジャージ姿で初めましての挨拶とはみっともない。

若宮さんは人の良さそうなニコニコ顔で、さっと握手を求めてきた。

(優しそうな人だなあ……)

握手に応じながら、ここぞとばかりに顔をマジマジと見つめる。トロンと垂れた目は笑うとクシャっと皺が出来て、見ているこちらの気持ちを和ませた。

貴子はてっきり強引でワイルド系の男性が好きなのかと思っていたので、正反対の男性を選んだことが物凄く意外だった。

「早速ですが、足を診せてもらえますか?」

戸惑う私に貴子が補足説明をしてくれる。

「夫は私の専属トレーナーなの。あだ名は“ゴッドハンド”」

「やだなあ、貴ちゃん。大層なあだ名をつけられて恥ずかしい思いをしているのは知っているだろう?」

ゴッドハンドは照れたように髪を掻くと、レンタカーの後部座席のドアをそそくさと開けた。

……そこには、既にタオルやクッションが準備されていた。