「ちょっと!!どうしたっていうのよ!?」
腹を立てながらスタートラインまで走って行くと、輪の中心にはかっちりとしたスーツが決まった忌々しいボブカットが立っていた。
「小夜、元気だった?」
「貴子、いつ帰って来たの?」
「ついさっき」
「……まだ練習中なんだけど?」
帰って来るなら連絡してとあれほど言っているのに、まともに聞いてもらえた試しがない。
「若宮選手!!握手してください!!」
「はいはい。順番ね」
宝城学園陸上部が誇る大スターでもあり、時の人。若宮貴子選手の登場に生徒達は熱気に沸いた。
即席の握手会は15分ほど続き、私は邪魔をした詫びの印に貴子に食事を奢らせようと固く心に決める。
半年の間に吉池さんは私を小夜と呼ぶようになり、私は吉池さんを貴子と呼ぶようになっていた。何回か貴子の実家にお邪魔して、昔話で盛り上がってそのまま泊まることもあった。
人生とは不思議なものだ。
大事なものを失ったかと思えば、そのおかげで新しい物を得ることもある。かつてのライバルは遠く離れたこの地で友人となった。
偶然という言葉ではとても片付けられない。
……どれも愛おしい。
志信くんの元を離れた私はこの身に起こること、ひとつひとつの意味を考えるようになっていた。



