**********
「じゃじゃーん!!」
100メートルを走り終えたばかりの由依ちゃんに、効果音付きでストップウォッチを見せるとぱあっと顔が輝いた。
「すごい!!0.1秒も早くなってる!!」
「これからぐんぐん伸びるよ」
「コーチのおかげですぅ!!」
由依ちゃんは宝城学園陸上部の中でも、走ること対して前向きに取り組む子だった。
ひとに素直に教えを請う姿勢と、教えたことを直ぐに実践できる吸収力は、驚嘆に値する。将来有望な教え子を持って、コーチとしては鼻高々だった。
特訓の成果に満足すると、片手に持ったクリップボードに先ほどの記録を記入する。
(これは、来月の大会で上位も狙えるかも……)
こっそり田淵監督に伝えておこう。監督なら由依ちゃんの資質を更に伸ばすことが可能だ。
あの吉池さんを育て上げただけあって、指導者としての腕も性格も田淵監督も一筋縄じゃいかない人だった。
一見すると孫を可愛がりそうな好々爺にしか見えないのに、グラウンドに一歩足を踏み入れた途端に鬼監督となって檄を飛ばす。
監督の元、コーチとして学生の指導に当たって早半年。私はいまだに怒鳴られっぱなしである。
さて、怒られない内に全員のタイムを取ってしまいましょうかね。
スタートラインで待機している生徒に、準備を始めるように笛で合図を送る。
しかし、私の知らぬ間にスタートラインには人だかりが出来ていて、何度笛を吹いてもあっけなく無視された。



