“あなたの力は誰かを救うためにあるわ”
衣擦れの音しか聞こえなかった空間に突如、舞い降りた人影に俺は驚きを隠せなかった。
こんなバカなことがあるはずない。
助けを求めていた俺に都合よく救いの手が差し伸べられるなんて……。
「小……夜……」
これは夢なのか?
それとも幻なのか?
白いワンピースに身を包んだ半透明の身体の小夜は黒髪をなびかせて近づいてくると、立ち尽くした俺の顔を手で包んで額をコツンと合わせた。
“大丈夫、真尋さんは目覚めるわ。自信を持って”
……穏やかな微笑みは本物の小夜そのものだった。
「行くな!!」
引き留めるように腕を掴もうと伸ばした手は、あっけなくすり抜けていく。
「小夜!!」
再び名前を呼ぶと、幻は寂しそうに視線を彷徨わせて微かな閃光とともに消えていった。
(呼んだから来てくれたのか?)
俺と小夜はまだ心の奥底、魂の絆で繋がっているという事実に希望を見出す。
このままでは終わらせやしない。終わらせてなるものか。
「志信さん」
正宗は板戸をノックすると、返事も待たずに真尋の容態を知らせた。
「真尋が目を覚ましたそうです……」



