今宵も、月と踊る


祝詞を唱える声が震えるなんて初めてのことだった。

身近な人間の死を間近に感じることに、これほど動揺するとは思ってもいなかった。

母親の死期を知らせなかった祖父の判断は、ある意味では正しかったのかもしれない。

あの頃と違うのは真尋の死を、指を咥えて待つような愚かな真似はしたくないということだけだ。

祝詞を唱え終えると榊を持って立ち上がり、そのまま舞い始める。

(小夜……力を貸してくれ……)

……本当は怖いんだ。

このまま真尋が目覚めなかったらと思うと怖くてたまらない。

俺と正宗と真尋。物心つく頃から3人は一緒だった。

“カグヤ憑き”の力が発現した時も、母親が死んだ時も、あのふたりが常に寄り添っていた。

真尋が俺を庇って大怪我を負い深い眠りについた時、初めて失ったものの大きさに気付いた。

だから、絶対に治してみせると心に決めたんだ。

……真尋は俺の大事な幼馴染みだ。代わりの人間などいやしない。

(起きろ……)

いつまで寝ていれば気が済むんだ?

俺も正宗もお前が目覚める時をずっと待っている。